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ベートーヴェン ピアノソナタ第30番〜32番 ポリーニ(2019年)

このアルバムの3つのポイント
  • ベートーヴェン生誕250年にリリースされた、現代を代表する巨匠ポリーニによる44年ぶりの後期ソナタの再録音!

  • 若かりし頃と変わらないテンポと、深化したピアニズムの境地

  • 長年弾き込んできた「新約聖書」に感極まるポリーニ自身の呻き声



2020年のベートーヴェン生誕250年を記念して2月21日に世界同時リリースとなったのが、現代を代表するピアニスト、マウリツィオ・ポリーニによるベートーヴェンのピアノソナタ第30番〜32番。まだ今年もあと10ヶ月あるが、おそらくこの録音が今年のベートーヴェンのレコードの最も目玉になったのではないだろうか。それぐらい、このレコードには計り知れない価値がある。

ポリーニのベートーヴェンのピアノソナタと言えば、1975年6月の第30番31番の後期ソナタからレコーディングを始め、約39年掛けて2014年6月の第16番〜20番で全集録音を完了した。その間にポリーニの演奏スタイルも変化していき、後期ソナタが大理石のような磨き上げられた硬さで、男性的な「ガンガン」弾くスタイルであったが、1980年代の中盤あたりに録音された中期ソナタでは、ペダルで音をつなげてレガートに演奏し音にも深みが増していき、そして2000年代に入って録音された初期ソナタではまろやかが増していって、初期ソナタと後期ソナタで演奏スタイルが逆だったらよりしっくり来るのにと思っていたのだが、ついに待望の後期ソナタを現在のポリーニの演奏で聴くことができる機会が来た。

私は4年前の2016年のポリーニの来日リサイタルで直接彼の演奏を聴いたが、歳を経ても己と立ち向かうような姿に聴衆からはスタンディングオベーションの拍手で賛辞が贈られた。そんな彼がベートーヴェンの後期ソナタを弾くのなら、期待してしまう。

この3つの後期ソナタについては、私自身も楽譜を購入してピアノの練習をしたこともあるし、聴くのも好きである。聴くとしたら1991年の2人の録音が気に入っている。スヴャトスラフ・リヒテルの再録と、ヴラディーミル・アシュケナージの再録である。どちらもロシア出身のピアニストで、高音部のきらびやかさと、弱音での詩的な表現が素晴らしいと感じる。テンポは速くもなく、遅すぎることもない。この後期ソナタを聴くといつも自分の内面を見つめ直すような気分になる。内省的、レトロスペクティブ、そんな表現が当てはまる音楽である。

さてこのポリーニの演奏はどうだろう。CDジャケットにポリーニのコメントが書いてあるが、「これらの作品を過去40年に渡って何度も何度も演奏してきました。その度に隅々まで新たな宝があるのを見付けてきました。」と言っているように、彼自身この3曲のピアノソナタは長年弾いてきているので、曲の解釈にもテンポにも全く迷いも揺らぎもない。彼がたどり着いた境地だろう。

最初の第30番を聴いて何だか懐かしい気分になった。やや速めのテンポで、そして高音は大理石のように透明な音色だが、低音はガンガンと勇ましく弾く。特に第2楽章のダイナミックさは年齢を感じさせない勇ましさである。44年前の録音と変わらないなぁ、と思いながらも、深みを増したハーモニーには彼のこれまでの生き様を感じる。過去を振り返りながら今を聴いている、そんな不思議な気持ちになる。この曲は「無常」と表現するのがしっくり来る。常に音が流れて、こぼれ落ちて、決して同じところに止まろうとしない。さらに第3楽章の変奏曲では様々に姿を変えて、現れては過ぎ去ってしまう。ポリーニ自身も常に深化し続けるところは無常と言えるだろう。ここではポリーニの呻き声らしきものも聴こえる。(トラック9の40秒や1分11秒あたり)

第31番でも第1楽章の透明感ある高音と、勇ましい低音のコントラストが絶妙。ここでもポリーニの呻き声らしきものがかすかに聞こえる。第2楽章でも年齢を感じさせないダイナミズムがすごいの一言。第3楽章のフーガでのアリアはベートーヴェンが作曲した音楽で最も美しいものの一つと言っていいだろう。素朴な旋律が形を変えて玉手箱のようにきらめく。ここでのポリーニの演奏を聴いて、思わず涙ぐんでしまった。これまでの集大成かのように、孤高のベートーヴェンに立ち向かうポリーニの姿を思い浮かべて、その偉大さに目頭が熱くなった。クライマックスではポリーニの呻き声が入り込んでいる。トラック13の5分40秒あたり。感極まって自然と発せられた声なのだろう。

そして最後の第32番。相変わらずの速さに驚く。2019年で77歳になったポリーニだが、年齢を考えると信じられない速さである。しかも正確。若かりし時のように「完璧」とまでは言えなく、この曲では時折タッチが少し怪しくなり綻びを見せるところもあるのだが、それでもこのテンポでこの強靭さですごい。勇ましい第1楽章に続く、第2楽章。対照的なゆったりとしたテンポで、美しい旋律が変奏曲となって次々と形を変えていく。ここでも若かりし頃から変わらない力強い打鍵と透明感あるタッチと、深みを増した音色が絶妙。やはり速めのテンポで進み続けるのがポリーニ流。

この後期ソナタのレコーディングを最初に聴いたときはもう少しテンポがゆっくりのほうが好みだと思ったのだが、繰り返し聴いているうちにこれがポリーニのたどり着いた境地だと感じるようになり、これ以上のものは無いような気持ちになった。

至高のベートーヴェンである。

オススメ度:★★★★★
ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ
録音:2019年6月24-26日, 2019年9月27日, ヘラクレス・ザール(ライヴ)

beethoven_the_last_three_sonatas_pollini.jpeg

受賞


新譜のため未定。

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試聴


ドイツ・グラモフォンのYoutubeページで2019年9月のヘラクレス・ザールでのリサイタルの演奏を試聴可能。

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